卵巣嚢腫とは?症状や卵巣嚢胞との違い、卵巣がんとの関連について
婦人科の診察で「卵巣嚢腫」や「卵巣嚢胞」と診断され、驚かれた方もいると思います。卵巣嚢腫の多くは良性ですが、まれにがん化するものもあります。本記事では卵巣嚢腫の種類や症状をはじめ、卵巣がんとの関連性についても解説します。卵巣がんの遺伝についても触れていますので、参考にしてみてください。
目次
卵巣嚢腫(のうしゅ)とは
通常親指大くらいの卵巣が大きく腫れる状態を「卵巣腫瘍」といいます。そのうち、液体が溜まる症状があるものを「卵巣嚢腫(嚢胞性卵巣腫瘍)」といい、卵巣腫瘍の80%程度を占めています。卵巣嚢腫の多くは良性ですが、まれにがん化するものもあります。
「卵巣嚢腫」と区別して、硬い塊が大きくなっていくものを「充実性卵巣腫瘍」といい、悪性のものが卵巣がんとなります。
ここでは、まず卵巣嚢腫の種類について解説します。(充実性卵巣腫瘍については後述します)。
漿液性嚢胞腺腫
「漿液性嚢胞腺腫(しょうえきせいのうほうせんしゅ)」は、卵巣から分泌されたサラサラの液体が溜まり、袋状になる嚢腫です。ほぼ良性ですがまれにがん化することもあります。思春期以降、年齢を問わず発症する可能性がある腫瘍です。
粘液性嚢胞腺腫
「粘液性嚢胞腺腫」は、黄色や痰白色のドロドロとした液体が溜まり、袋状になる嚢腫です。著しく肥大することがあり、まれにがん化することもあります。閉経後にみられることが多い腫瘍です。
成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)
「成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)」は、卵胞のなかにある生殖細胞から発生する嚢腫です。生殖細胞が分裂する際、成熟途中のものが混入し、歯や骨、毛髪、脂肪などが含まれる腫瘍ができます。
嚢腫が大きくなると、下腹部痛などが現れることがあり、これもまれにがん化することがあります。比較的若い女性に多い傾向があることもわかっています。
チョコレート嚢胞
「チョコレート嚢胞」は、子宮内膜症が卵巣にできる嚢腫です(子宮内膜症性卵巣嚢胞ともいいます)。月経の際に剥がれた子宮内膜などが、卵管を通して逆流することで起こります。
溜まった古い血液が変色し、チョコレートのような色になることから、チョコレート嚢胞と呼ばれます。閉経前の女性に発症し、不妊の原因ともされています。チョコレート嚢胞も、まれにがん化することがあります。
卵巣嚢腫(のうしゅ)と卵巣嚢胞(のうほう)の違い
卵巣嚢腫のなかには、時間の経過とともに消えるものがあり、それらを総じて「機能性卵巣嚢胞」といいます。
機能性卵巣嚢胞には、卵胞嚢胞と黄体嚢胞があります。「卵胞嚢胞」は、卵胞内で卵子が成長する過程で発生するもの、「黄体嚢胞」は、卵子が放出されたあとの組織(黄体)から発生するものです。
いずれもホルモン周期に関連することが多いため、数回に分けて時期をずらして診察し、卵巣嚢腫なのか、機能性卵巣嚢胞なのかを見極める必要があります。
卵巣嚢腫と卵巣がんの関係
先述したように、卵巣嚢腫の場合もまれにがん化するケースがあります。特に、チョコレート嚢胞は45歳以上、嚢胞のサイズが6cm以上という条件が重なると、がん化しやすいことが明らかになっています。
そのほか、硬い塊が大きくなる充実性卵巣腫瘍には、良性・境界悪性・悪性の3パターンがあり、悪性=卵巣がんとされます。
※境界悪性は、悪性と良性の中間の性質をもつ
卵巣腫瘍のうち、充実性卵巣腫瘍は10~20%程度で、検査や手術後の病理検査で確定させるのが一般的です。
卵巣嚢腫の症状
卵巣嚢腫は、初期(嚢腫が小さいうち)は症状が出にくいものです。妊娠や月経不順などをきっかけに病院を受診し、見つかることもあります。また、衣類のウエストがきつくなったり、トイレが近くなったことをきっかけに受診し、診断されることもあります。
嚢腫が大きくなると、下腹部痛や張りのような違和感、しこりなどの症状が現れることがあります。嚢腫は20~30cmほどにまで肥大することがあり、大きくなる過程で破裂や捻転すると、強い下腹部痛が起こり、卵巣の壊死や腹膜炎などに繋がりやすくなります。この場合、緊急手術を要することもあります。
チョコレート嚢胞の場合、卵巣・子宮・直腸と癒着しやすいことも、特徴のひとつです。慢性的な腹痛や排便痛、性交痛などを伴うケースがあります。また、慢性的な炎症により、不妊の原因となることもあります。
当てはまる症状がある方は、お気軽にこちらからご相談ください。
卵巣嚢腫の検査や診断
ここでは、卵巣嚢腫や卵巣腫瘍が疑われる場合の検査や診断について解説します。
超音波検査
卵巣嚢腫の場合、まず行われるのは超音波検査です。嚢腫の種類や、腫瘍がある場合には良性か悪性かの手がかりを調べます。
悪性が疑われる所見としては、「充実性構造(硬いかたまりがある)」「腫瘤壁から突出する乳頭構造(腫瘍内部がゴツゴツしている)」「充実部分(かたまり)と嚢胞部分(袋状)の混在」などが挙げられます。
MRI検査
MRI検査も併用されることが多いです。MRI検査では、腫瘍の大きさ、状態、悪性かどうかなどを診断します。
悪性が疑われる所見としては、「充実部分と嚢胞部分の混在」「隔壁の不規則な肥厚(厚くなること)」「腫瘍内壊死・出血の存在」などが挙げられます。とくにチョコレート嚢胞の場合、MRIで血流などの検査を行い確定させることが多いです。
腫瘍マーカーや病理検査などその他の検査
悪性が疑われる場合、腫瘍マーカーの計測値も参考にします。卵巣の悪性腫瘍の場合、「CA125」「CA19-9」「HE4」などの値が高く出るかどうかがひとつの指標となります。
また、最終的な良性・境界悪性・悪性の確定は、病理検査を用いて判断します。
出典:産婦人科診療ガイドライン|公益社団法人 日本産婦人科学会・日本産婦人科医会
卵巣がんの遺伝について
卵巣がんについては、約10%が遺伝的要因と考えられています。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は、血縁関係に乳がんや卵巣がんに罹患したことがある人がいたり、特定の遺伝子に変異があるとされている場合などに、罹患リスクが高まるとされています。卵巣がんの場合、「BRCA1遺伝子」に変異がある場合は40%前後、「BRCA2遺伝子」に変異がある場合は20%前後、発症リスクがあるといわれています。
HBOCについては、一定の条件を満たしていれば、特定の医療機関において、遺伝子検査やカウンセリングなどが保険適用で受けられます。
その他、保険適用外の遺伝子検査もあり、がんにかかりやすいかどうかなどを調べることができます。
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