前立腺がんの死亡率はどのくらい?リスク因子や予防についても解説
前立腺がんは日本人だけでなく、世界的にみても罹患数が多いがんです。2019年の統計では、国内で年間9.5万人が前立腺がんと診断されています。
では、死亡率に関してはどうでしょうか。本記事では、前立腺がんの罹患数・死亡率などの統計や、リスク因子などについて解説します。
目次
前立腺がんとは
前立腺は男性の膀胱の下に位置する臓器で、精液の一部に含まれる前立腺液をつくっています。前立腺の細胞が異常増殖することにより、前立腺がんが発生します。進行は遅いことが多いため、早期発見できれば比較的治りやすいがんとされています。
多くの場合自覚症状に乏しく、特に早期では無症状とされています。ただし、発生部位によっては前立腺肥大症を併発する場合があり、その場合、尿の出にくさを感じることや、頻尿などの症状が出ることがあります。進行するとリンパ節や骨、肺、肝臓などに転移するケースや、血尿や骨の痛みが出ることもあります。
ちなみに、前立腺がんの多くは外腺と呼ばれる尿道から離れた辺縁領域に発生しますが、前立腺肥大症は内腺と呼ばれる尿道近くの移行領域に発生します。前立腺がんと前立腺肥大症が併発することはありますが、良性の前立腺肥大症から前立腺がんになることはないといわれています。
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前立腺がんの罹患数・死亡率やその他の統計
ここからは、前立腺がんについて、罹患数・死亡率をはじめとした統計について解説します。
前立腺がんの罹患数
前立腺がんの日本の罹患数は、2019年の統計で約9.5万人です。日本人男性ではもっとも罹患数が多いがんとされています。世界的にみても、米国の罹患数も1位との統計があり、欧米等の先進国で多い傾向です。
2000年頃を境に、罹患数が急増しているのが特徴です。罹患率を年齢別にみると、50代以降の罹患率が高く、60代~70代で急増しています。
前立腺がんの死亡率
前立腺がんの人口10万人あたりの死亡率は、21.3人とされています。2020年の死亡数を部位別にみると、1位の肺が約5万人であるのに対し、前立腺がんは約1万人で7位と、罹患数の割に低い水準といえるでしょう(米国では死亡数2位)。
1975年以降、緩やかですが死亡数は増加傾向にあります。2020年~2024年の年平均死亡数は約1.5万人、2000年の約1.8倍になるとの予測もあります。ただ、年齢調整死亡率に目を向けると、2000年をピークにやや減少しています。
欧州ではPSA検診受診により死亡率が低下
PSA検診とは、PSAというたんぱく質の値を、血液を採取することにより調べる検査です。PSAは通常前立腺液に含まれますが、がんの影響で前立腺組織が壊れると血液中に漏れ出すため、血液検査で異常を発見できます。
欧州では14年間にわたり、PSA検診受診での死亡率低下が研究されており、受診の結果、前立腺がんでの死亡の危険率が44%減少することが証明されました。
前立腺がんの生存率
前立腺がんの5年生存率(相対生存率)は、ステージI期~III期が100%、ステージIV期が63.4%となっています。全体を平均すると98.4%となり、ほかのがんに比べて生存率は高いといえるでしょう。
※相対生存率:他の病気等による死亡の影響を取り除いた生存率
死因に関係なく、他の病気も計算に含めた実測生存率は、ステージI期が89.6%、ステージII期が91.1%、ステージIII期が86.2%、ステージIV期が51.2%とされています。これは、前立腺がんの進行が遅いため、ほかの原因で死亡した人を調べた結果、前立腺がんが発覚するケースが影響していると考えられます。
出典:がん種別統計情報 前立腺|国立研究開発法人 国立がん研究センター
前立腺がん増加の原因
2000年頃を境に前立腺がんの罹患数が急増していますが、ここではその原因と考えられることについて解説します。
PSA検診の受診数増加
先述したように、欧米ではPSA検診がかなり普及していますが、日本でも受診率が上昇しています。それに伴って前立腺がんが発見されるケースが増えていることが、前立腺がんの罹患数増加につながっていると考えられます。
国内人口の高齢化
前立腺がんの年齢別罹患数が示すとおり、60代~70代の罹患数が多く、80代以上でも潜在的に前立腺がん患者がいるといわれています。平均寿命が延び高齢者が増加していることが、前立腺がん増加の一因とも考えられています。
食習慣の欧米化
そのほか、食生活の欧米化も前立腺がんの一因と考えられています。
国立がん研究センターの予防関連プロジェクトの研究によると、欧米型食事パターンでは、前立腺がん発症のリスクが増加する傾向にあることが明らかになっています。欧米型の食事パターンでは、飽和脂肪酸や赤身肉・加工肉に含まれるヘム鉄の摂取が多くなるため、そのことが前立腺がん発症のリスクと関連していると考えられています。
前立腺がんのリスク因子や予防について
最後に、前立腺がんのリスク因子や予防について解説します。
前立腺がんのリスク因子
前立腺がんのリスク因子は、前立腺がんの家族歴、高年齢、食事や運動などの生活習慣、環境因子などが挙げられます。
特に家族歴は、前立腺がんの罹患リスクを約2.4倍~5.6倍に高めるとされています。国や人種により異なる統計ではありますが、日本国内の研究では、第一近親者(親子または兄弟)に1人前立腺がん患者がいる場合の罹患リスクは、5.6倍とされています。
また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)におけるBRCA2遺伝子に変化がある男性の場合、前立腺がん発症のリスクが少し上昇することも明らかになっています。
そのほか、先述した欧米型の食事パターン、肥満、カルシウムの過剰摂取、喫煙なども挙げられますが、まだ特定には至っていません。
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前立腺がんの予防
前立腺がん固有の予防法は確立されていませんが、がん全般の予防として、「日本人のためのがん予防法」というガイドラインが提唱されています(国立がん研究センターをはじめとした研究グループによる)。同ガイドラインは、科学的根拠に根差した予防法を提唱しています。
予防に重要な6つの要素は「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」「感染」。前立腺がんの場合、欧米型の食事パターンがリスク因子として明らかになっているため、健康的な食生活を送ることが予防につながると考えられます。